三体を読みました。 劉慈欣さんのSF小説。話題の本です。
話題になったから、読んだけど、むかしからSF好きです。ダン・シモンズさんの「ハイペリオン」からアメリカのハードSFはけっこう読んでます。「三体」は中国の小説ですが、あとがきで、 劉慈欣さんもアメリカSFから影響を受けたと書いています。
3つの恒星の乱れた軌道上の惑星に住む三体星人、極寒や極暑の不安定な気候に悩まされつつ、脱水乾燥の性質で、何とか生存しつつ、知的生命体として、滅亡をくり返しつつ、文明を進歩させていました。ある文明のとき、彼らの惑星がいつか、3つの恒星のどれかに落ちて、消えてしまうだろうとわかります。彼らは、生存をかけ、別の居住惑星を探します。
そんなとき、中国では、文化大革命で、ある少女(葉文潔(イエ・ウェンジエ))が物理学者の父を殺され、トラウマを抱えます。彼女は、やがて、環境破壊に警鐘を鳴らした有名な本、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」に出会い、大きな影響を受けます。やがて、一生出られないことを覚悟で宇宙研究の極秘基地に入り、宇宙物理学者として研究を行います。研究の中、三体星人との交信に成功した彼女は、彼らの異星人征服計画を知り、文化大革命や環境破壊から、人類に失望していた彼女は、征服を促す通信を行い、その通信から三体星人は地球の場所を把握し、征服計画を実行していきます。
三体Ⅲまで三部作あるそうです。とりあえず、一巻を読み終えました。
わたしが、印象に残ったことは3点、人類に生き残る価値はあるのかというテーマ、三体星人のかわいそうな歴史とおもしろいバトルシーン、です。
まず、人類の存在価値というテーマは、主人公の一人、不遇の少女、葉文潔(イエウェンジエ)の物語から切り取られます。
物語の冒頭、中国文化大革命の時代、彼女の物理学者の父は見せしめにされながら、彼女の見てる前で処刑され、長いトラウマとなります。後に宇宙物理学者として地位を得てから、当時の処刑を行った人々と出会いますが、彼らは、自分の現在の不遇を嘆くばかりで、当時のことも仕方がなかったというばかりで、謝罪してくれません。これが、さらに彼女の人間への失望を深めさせます。
さらに、葉さんは、父の処刑後、極秘基地近くの森林伐採の現場で働いていました。この自然破壊を狂っていると感じていましたが、同僚から、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」をもらい、さらにその気持ちを深めます。基地近くの自然破壊はいつまでも終わらず、彼女の環境破壊活動を行う人間への失望は深まっていきます。
彼女は、文化大革命の心の傷と環境破壊活動から、人類に失望し、三体星人の地球征服計画を知ると、地球の場所を知らせてしまいます。さらに、外国の大金持ちの男とともに、三体星人の侵略を助ける秘密結社までつくってしまうのでした。
単に、悪い宇宙人が攻めてくるという話でなく、そもそも、現在の人類に存続する価値はあるのかという葛藤を、ひとりの女性主人公を通じて、からめて描いています。
わたしのこのテーマへの、個人的意見は、人類に存続する価値はあるだろうということです。
生命は、複雑な化学反応の後、生まれたといいます。その後、多くの枝分かれを経て、その枝分かれたうちの一つとして、人類がいるそうです。 つまり、人類も自然の一部だということです。
自然を破壊するから、自然の一部である人類は、滅んだ方がよいというのは、身も蓋もない話です。
自然環境を破壊し続ければ、当然自然の一部である人類にも危害は及ぶので、自分たちを再生できないくらいに破壊してしまうのが、人間の性質なら、勝手に滅びてしまうことでしょう。異星人に滅ぼしてくれとお願いすることではありません。しかも三体星人は、過酷すぎる環境で生きており、それほどエコロジーに見えません。
機動武闘伝Gガンダム、ガンダムファイト決勝ラウンドで東方不敗は 『人類を滅ぼし地球自然を守る』といいます。対して、ドモンは 『人類もまた地球が生んだ天然自然の一つ。それを無視して地球再生など言語道断』と語り、壮絶な技の打ち合いの後、勝ちます。
葉姉さんもドモンのような人間に会っていたら、考えを変えていたかもしれません。
ただ、 劉慈欣さんも、この巻を、人類に希望をもたせる終りにもしています。
最終章ひとつ前の章では、もうひとりの主人公汪淼(ワン・ミャオ)に希望を託しています。
三体星人が人類への攻撃作戦をひとつ成功させたのち、「おまえたちは、虫にすぎない」というメッセージをよこしますが、これに汪淼(ワン・ミャオ)はひどく落ち込みます。それに気づいていた仲間のひとりが、ワン・ミャオを彼の田舎に連れていき、イナゴの大群が、自分たちの田畑を荒らしてるのを見せます。ワンは、「なぜここに連れてきたんだ」といいます。仲間のひとりは、「三体星人と人類の技術差は、イナゴと人類ほどにあるのか」と問いかけます。これによって、ワンは、人間がどれほど努力しても虫たちを駆逐することはできなかったことを思い出し、人類を虫とみなす三体星人は、虫たちが決して負けたことはなかったということを忘れているのだと考えます。
劉慈欣さんは、この章では、主人公のひとりには、自然と人間との絆を思い出させることで、人類の希望を描いています。
最終章では、逆に人類を裏切った葉文潔が、黄昏時、真っ赤に染まった空を前に、「わたしの黄昏だ」、「そして、人類の黄昏だ」とささやき、次巻への暗示のような場面で巻は終わります。
長くなったので、 三体星人のかわいそうな歴史とおもしろいバトルシーン、を振り返るのは次の記事にします。
ボーカロイドCDを制作してます。↓
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